相場のデータ・指標

「米国長期金利」のデータ分析(H30.6)(日本と中国の米国債保有額・FRB保有債券残高)

ここでは、直近の「米国長期金利」について、日本と中国の米国債保有額やFRBの保有債券残高といった観点から見ていきたいと思います。

なお、各指標に関しては、以下の記事でそれぞれ詳しく解説していますので、よろしければご参照ください。

1.米国債保有額(日本・中国・総計)

まずは、日本と中国の米国債の保有額および保有率について見ていきます。

日本と中国の米国債保有額・保有率の推移を示した図(H30.6)。)

この図からは、ここ数年は日本と中国ともに、米国債の保有額と保有率ともに減少傾向となっていることが分かります。

そして、日本と中国の米国債保有額を合計したものと、米10年国債価格の推移を示したのが以下の図です。

日本と中国の米国債合計保有額と米10年国債価格の推移を示した図(H30.6)。

この図からは、日本と中国の米国債の合計保有額の減少に伴って、米国10年債価格も下落しているように見えます。

とはいえ、初めに示した図からも分かるように、日本と中国を合わせた米国債の保有率というのは、4割にも満たないものです。

そこで、世界各国の米国債保有額の総計についても、米10年国債価格の推移とともに示したのが以下の図になります。

米国債保有額総計と米10年国債価格の推移を示した図(H30.6)。

すると、世界各国の米国債保有額の総計は減少しておらず、ここ数年はほぼ横ばいでの推移となっていることが見て取れます。

以上のことから、世界全体で見た場合には、米国債の需給が悪化しているとは言えず、これが米10年国債価格の下落(=米長期金利の上昇)の原因であるとは考えづらいことが分かります。

2.FRBの保有債券残高

次に、FRBの保有債券残高について見ていきます。

FRBでは2017年9月20日に、量的緩和政策により買い入れた資産を減らしていく、保有資産縮小が決定されていました。

この量的緩和政策において買い入れられた資産というのは具体的には、米国債、住宅ローン担保証券(MBS)、政府機関債の3つになります。

まずはこれら3つについて、FRB保有残高の推移をそれぞれ見ていきたいと思います。

米国債のFRB保有残高の推移を示した図(H30.6)。

MBSのFRB保有残高の推移を示した図(H30.6)。

政府機関債のFRB保有残高の推移を示した図(H30.6)。

さらに、これら3つを合計した、FRB保有債券残高の推移を示したのが以下の図になります。FRB保有債券残高の推移を示したの図(H30.6)。

やや分かりづらいですが、2017年12月頃より、FRB保有債券残高の縮小が始まっていることが分かります。

そして、FRB保有債券残高の推移を示したこの図の2017年1月以降を取り出して、米長期金利の推移とともに示したのが以下の図です。(見やすくするために、右軸のFRB保有債券残高のスケールは反転してあります。)

FRB保有債券残高と米長期金利の推移を示した図(H30.6)。

この図からは、直近において両者の乖離が拡大しており、米長期金利(米10年国債利回り)にはまだまだ上昇余地があるように見えます。

3.総括

ただ、ここまで見てきたように、確かに長期金利は需給と相関性の強い期間も認められるものの、やはり基本的には需給ではなく、経済の潜在成長率や期待インフレ率、リスクプレミアムにより決まってくるということなのかもしれません。

大まかに言えば、長期金利はやはり景気・経済の見通しにより決まってくるものなのだろうということです。

そして、目先の相場で言うと、米中の通商戦争が焦点になっていると思われます。

具体的には、米国の対中制裁関税の第一弾が7月6日に発動される可能性が高くなっており、中国も報復措置の発動を発表しています。

この米中の通商戦争により、米国の景気・経済への先行き懸念が強まっていることから、米長期金利は5月中旬の3%を超えていた水準から低下しているのではないかと考えられるのです。

ただ、今後の米長期金利の行方については、もうしばらく経過を見てみないと何ともいえないところです。

しかし、今後、米国経済の減速が明らかなものとなり、利上げのペースが鈍化するようなことがあれば、ドル円相場が円高に進む可能性が高く、実際にそのような展開となる可能性が高いのではないでしょうか。

 

「米国株(S&P 500)」のデータ分析(H30.6)(PER・CAPEレシオ・ブルベア指数・長短金利差)前のページ

「WTI原油」のデータ分析(H30.6)(CFTC建玉明細(投機筋)、ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI)、原油在庫統計(EIA・API))次のページ

関連記事

  1. 相場のデータ・指標

    新値銘柄数で相場の天底を測れるか!?

    この記事では、新値銘柄数(新高値銘柄数と新安値銘柄数)の特徴や、その見…

  2. 相場のデータ・指標

    バリュー株指数 vs. グロース株指数(米国株)

    この記事では、「ラッセル 1000 バリュー株指数」と「ラッセル 10…

  3. 相場のデータ・指標

    「米国株(S&P 500)」のデータ分析(2021.7)(PER・CAPEレシオ・ブルベア…

    この記事では、直近の「米国株(S&P 500)」について、PER・CA…

  4. 相場のデータ・指標

    CAPEレシオ(シラーPER)やPERから見て、S&P500は割高か?

    この記事では、CAPEレシオ(シラーPER)という指標やPERの観点か…

  5. 相場のデータ・指標

    【2022年6月】「東証REIT指数」の最新データ分析(NAV倍率・分配金利回り・TOPIX・東証1…

    この記事では、直近の「東証REIT指数」について、NAV倍率・分配金利…

電子書籍(3冊全て、Amazonランキング1位獲得)

「マーケットの魔術師」ならぬ「マーケットの詐欺師」

精神科医が暴く金融業界の裏側

 

勝者の心構え

精神科医が看破する投資の本質

 

 

 

この心理的罠からあなたは逃れられるか

精神科医が洞察する投資家心理

 

  1. 相場のデータ・指標

    「WTI原油」のデータ分析(2019.9)(CFTC建玉明細(投機筋)、ブレーク…
  2. 相場のデータ・指標

    デビッド・テッパー氏率いるアパルーサ・マネジメントの最新ポートフォリオ(2021…
  3. 読書録・書評

    【読書録・書評】『勝率9割の投資セオリーは存在するか 長期データを検証し分析する…
  4. 相場のデータ・指標

    辰年の2024年、「辰巳天井」の形成なるか!?
  5. 読書録・書評

    【読書録・書評】『運、タイミング、テクニックに頼らない! 最強のファンダメンタル…
PAGE TOP