読書録・書評

【読書録・書評】『プライベートバンクの嘘と真実』

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

1.書籍の概要

まずは、本書の概要からです。

本書では、プライベートバンクの実態やサービス内容、どう接触して口座を開設するのかなどといったことについて書かれています。

章立てとしては、以下のようになっています。

  • 序章:資産家の不安に付け込む「自称プライベートバンク」ビジネスの嘘
  • 第1章:日本人が知らない、本場ヨーロッパの伝統的プライベートバンクの実態とは?
  • 第2章:伝統的プライベートバンクを形作る「人と組織」
  • 第3章:数百年にわたって世界の富裕層から信頼され続けてきた「運用力&サービス」の秘密
  • 第4章:実際にどのようなポートフォリオを組んでいるのか
  • 第5章:日本人はどうすれば伝統的プライベートバンクに資産を託せるのか
  • 終章:プライベートバンクは「一族のパートナー」である

ここでは、本書の中で気になった部分や参考になった部分について、一部を抜粋しながらレビューしていきたいと思います。

2.日本の金融機関は顧客目線でない

序章では、「証券会社の「ラップ口座」はメリット不明」、「なんでも保険を絡めてくる保険外交員に要注意」といったことなどが書かれています。

日本の投資信託では、「シナリオファンド」というものが数多く存在します。

シナリオファンドというのは、その時その時に流行している投資テーマに合わせて組成されるファンドで、近年では「ブラジル五輪ファンド」とか「AIファンド」があります。

これらは話題性から個人投資家に売りやすい、あるいは乗り換えさせやすいだけで、本当に高いパフォーマンスを上げられるかどうかは不明です。そもそも長期投資を軸にしているとは思えません。

日本の証券会社などは、顧客にこういったファンドへと乗り換えさせることを繰り返して、販売手数料を稼ぐ「回転売買(過当売買)」を行っているのです。

つまり、日本の金融サービスというのは、残念ながら顧客目線からは程遠いものばかりなのです。

3.プライベートバンクの実態やサービス内容

第1章では、プライベートバンクの実態ということで、その歴史的な成り立ちなどといったものや、スイス、リヒテンシュタイン、オーストリアのいくつかのプライベートバンクについても簡単に紹介されています。

第2章では、プライベートバンカーの人物像や、プライベートバンクの組織形態について主に書かれています。

組織形態としては具体的に、無限責任のジェネラル・パートナーシップ制、有限責任のリミテッド・パートナーシップ制、株式会社といったものが挙げられています。

第3章の前半では、プライベートバンクのサービス内容について、オーストリアのプライベートバンクのCEOが説明しています。

その内容をまとめると、顧客との十分なコンサルティングを通じて、資産管理、税の最適化、遺産分割や資産承継などを支援していくといったものになります。

第3章の後半では、著者の補足が入っています。

その中に、「価値の下がる銘柄を持たないようにする」という節があります。

価値の下がる銘柄を事前に見極められるのであれば誰も苦労はしませんが、その見極め方については一切触れられていません。

そして、この節の後半では株価指数の話になり、バブル崩壊前の水準を回復できていない日本よりも、株価指数が長期的には必ず上昇していくと考えられている、欧州や米国の株価指数が良い、といったような論調です。

しかし、個人的には、欧州や米国の株価指数が、これまでのように右肩上がりで上昇していくとは限らず、いつ日本化してもおかしくないのではと思わなくもありません。

また、わざわざ割高に見える海外の株価指数に投資しなくても、海外売上高比率の高い日本の個別株に投資するという手もあるでしょう。

本章ではさらに、分散投資の重要性についても触れられています。

分散投資では、相関関係の弱い資産クラスを組み合わせることがカギとなってきます。

しかし、経済のグローバル化で、あらゆる資産クラスの価格連動性、相関関係が強まっています。

最近では逆相関の銘柄を見つけることが難しいため、無相関(順相関でも逆相関でもない関係)の銘柄も探します。

上記の内容に関しては全く賛成ですが、肝心の無相関の銘柄の見つけ方については一切書かれていませんでした。

また、分散投資の対象としては、株式や債券に限らず、ヘッジファンドや未公開株、不動産、商品などから選択すると書いてありますが、それらの具体例についても特に書かれてはいませんでした。

4.プライベートバンクのポートフォリオ

第4章では、スイスのプライベートバンクである、NHB(ノイエ・ヘルベティシュ)のポートフォリオの例が3つ挙げられています。

それらは以下のようなものになります。

  • 「ダイナミック・ハイリスク」・・・スイス株:99%、現預金:1%
  • 「バランス・ミディアムリスク①」・・・スイス株:42%、その他欧州株:18%、債券:34%、プライベートエクイティ:1%、現預金:5%
  • 「バランス・ミディアムリスク②」・・・スイス株:27%、その他欧州株:19%、債券:49%、派生商品:3%、現預金:2%

これだけを見ると、株式や債券といった伝統的資産の割合が高く、一方でプライベートエクイティや派生商品、不動産、商品などといったオルタナティブ投資の割合がかなり低く、地味な印象を受けます。

というのも、長年にわたって非常に高いパフォーマンスを上げている、ハーバード大学やイェール大学のエンダウメント投資戦略などでは、オルタナティブ投資の割合がかなり高くなっているからです。

また、スイス株の割合が高いことも気になりますが、上記のポートフォリオは主にスイスの富裕層に対して提案されるものであることを考えると、そこまで不自然なものではないのかもしれません。

ただ、スイスの個別銘柄はよく知らないので何とも言えませんが、スイスの個別株に投資するくらいであれば、経済大国である日本の個別株に投資したいと思ってしまいます。

この日本での投資に関しては、「日本国内で、リスクを抑えながら5%を超えるようなリターンを上げることは難しい」と書かれていますが、決してそんなことはありません。

はっきり言ってこれに関しては、海外投資を推奨するためのポジショントークであるとしか思えません。

そして、本章ではプライベートバンクが投資する「債券」として、CoCo債やクレジットリンク債などについても簡単に触れられています。

しかし、こういった類の金融商品については基本的に投資すべきではないと考えています。

一見、有利で優れた商品設計のようでも、ただリスクが見えにくくなっているだけのものに過ぎず、金融危機などいざというときに流動性が枯渇して、大きな損失を被ってしまう可能性が非常に高いためです。

最後に、日本人向けのポートフォリオの例も2つ挙げられています。

  • 日本人向けポートフォリオの例①・・・債券:26%、派生商品:73%、現預金:1%
  • 日本人向けポートフォリオの例②・・・株式:25%、債券:11%、派生商品:53%、現預金:25%

こちらは一転して、オルタナティブ投資の割合が非常に高くなっています。

日本人はやはり絶対的リターンを求める傾向が強いようです。

なお、株式や債券に関しては先進国、新興国などの内訳は記載されておらず、派生商品に関しても具体的には何も書かれてはいませんでした。

5.プライベートバンクの存在意義と総括

第5章では、プライベートバンクと接触して、口座を開設するための方法などについて書かれています。

終章は、本書のまとめのような内容で、「プライベートバンクは、資産の保全と継承を究極の目的とした長期の運用をビジネスの中心としています。」と書かれています。

この目的を達成するために、日本では難しいものの、「財団(ファウンデーション)」や「信託(トラスト)」がよく利用されるとのことです。

そして、プライベートバンクには、資産の保全・継承だけでなく、事業承継、税務、法務、後継者の教育、ヘルスケアなどの包括的なサービスを提供するといった役割もあります。

こういった非金融サービスに関して、プライベートバンクはとても魅力的な存在であるということは間違いないでしょう。

以上、見てきたように、本書の資産運用法という点に関する内容は、浅く表面的であり、片手落ちであると言わざるを得ません。

本書は、著者のプロフィール欄にあるような「トレーディング部門での経験が長い」方が書かれたものだとは到底思えず、資産運用法に期待して読むと間違いなく期待を裏切られるでしょう。

しかし、プライベートバンクの非金融サービスが魅力的であることには変わりなく、その点に興味がある人にとっては、プライベートバンクとどう繋がるかなどは参考になるでしょう。

 

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