読書録・書評

【読書録・書評】『富裕層のNo.1投資戦略』

ここでは、以下の書籍についてのレビューを書いていきたいと思います。

1.書籍の概要

まずは、本書の概要からです。

  • お役立ち度:
  • 難易度:
  • マニアック度:
  • 分類:ヘッジファンド

本書に関しては、前書きを読み始めてから「しまった!」と思いました。

拙著『「マーケットの魔術師」ならぬ「マーケットの詐欺師」』の中で詐欺的業者として取り上げた、あの悪名高き「アブラハム・プライベートバンク(現ヘッジファンドダイレクト)」の創業者、高岡壮一郎氏の著書だったからです。

案の定、本書は自身の運営する会社の事業内容へとつながるような、つまりヘッジファンドへの投資を勧めるような内容となっていました。

元三井物産エリートであり、海外ファンド助言事業を急成長させた同氏は、間違いなく超優秀な頭脳の持ち主であり、それは370ページ以上にもわたる本書の内容からも伝わってきます。

そしておそらく、そこまで投資に詳しくない人が本書を読んだら、ヘッジファンド以外に投資することが不合理なものに思えてしまうかもしれません。

そこで、本書の内容(もちろん、真っ当なことも多く書かれています)とともに、疑問に思った点について、ここでは書いていきたいと思います。

なお、本書の章立ては、以下のようになっています。

  • 序章  :個人投資家にとって最高の時代が到来した
  • 第1章:なぜ個人投資家の7割が損をしているのか?
  • 第2章:投資家のスタイルに関する7つの考察
  • 第3章:なぜ富裕層はヘッジファンドに投資しているのか?
  • 第4章:富裕層向け金融機関であるプライベートバンクと投資助言会社
  • 第5章:富裕層が保有している「手頃なヘッジファンド」の実例
  • 第6章:フィンテック時代の資産運用

2.個人投資家の多くが損する理由

第1章では、個人投資家の多くが損をする理由についての内容となっています。

その理由として、以下の3つが挙げられています。

  • ①金融商品を売る販売会社の問題
  • ②金融商品を作るメーカーである運用会社の問題
  • ③個人投資家の問題

①については、証券会社や銀行などの販売会社が、顧客の利益よりも、販売手数料目当てで、投資信託を販売しているといったことです。

②については、独立系の資産運用会社が存在感を示す欧米とは異なり、日本では運用会社の親会社が証券会社であったりと、系列の枠の中にとどまっていることが多いということになります。

そして、③は、個人投資家の金融リテラシーが、ある調査でG7の中で6位、世界では38位と先進国で下位となっているといったことが書かれています。

3.ヘッジファンド指数の実態

第2章は、投資家のスタイルについての内容で、投資判断は自分でするか、任せるかの二択ということで、まず次のようにまとめられています。

①自分で運用する

  • 株や不動産等の個別銘柄の売買を自分で行う →自分を信じて、自分の能力に応じた運用成果を享受する
  • インデックスに投資する →1960年代の投資理論を信じ、相場全体に身を委ねて、運用成果を享受する

②他人に運用を任せる

  • 投資信託
  • 投資運用サービス(ラップ口座・ロボアドバイザー)
  • ヘッジファンド →プロに個別銘柄の売買を任せて、運用成果を享受する

また、本章では次のような記載があります。

手元にストックがある富裕層からすると、1000万円以上のある程度まとまった資金を投資して、自分の目が黒いうちの向こう5~10年先の最大リターンを狙うのであれば、国際分散投資・インデックス投資に頼る「一般人の投資法」だけでは、資産防衛に不安が残ると言える。

そこで、ヘッジファンドの登場といったような流れなのですが、普通であればハイリスクハイリターンともいえる、ヘッジファンドに投資することの方が資産防衛に不安が残ると考えるのが自然です。

これに対しては、本書の根幹を成すともいえるデータとして、次に示す、アセットクラスごとのリスク・リターン実績表なるものが載せられています。

アセットクラスごとのリスク・リターン実績表

この表からは、ヘッジファンドが、新興国債券やグローバルREITと並ぶ最高水準のリターンを示すと同時に、リスクは現預金を除いて最も低いということが見て取れます。

ただ、この表に載せられている各アセットクラスは、ほとんどが1990年~2016年の期間となっていますが、ヘッジファンドだけは2000年からのデータとなっています。

本書の中で、ヘッジファンドを選別する際には、「少なくとも運用実績10年以上」と繰り返し書いているにも関わらず、ヘッジファンド指数に関しては10年未満のデータとなっているのです。

また、ここではヘッジファンド指数として、ユーレカヘッジの指数が用いられています。

ヘッジファンド指数には、他にも「HFRX グローバル・ヘッジファンド指数」や「ダウ・ジョーンズ・クレディ・スイス・ヘッジファンド指数」、「MSCIヘッジファンド指数」、「ヘネシー・ヘッジファンド指数」など、いくつもの種類があります。

なお、これらの中で最も代表的なヘッジファンド指数は、「HFRX」だといえます。

さらに、いくつかのヘッジファンド指数を比較した、あるレポートでは、ユーレカヘッジの総合指数は他社の指数と比較して、リターンの水準が高く、リスクが低いという結果が示されていました。

ですから、ここで何が言いたかったかというと、筆者は自身に都合の良いデータとして、意図的にユーレカヘッジのヘッジファンド指数を選んだのではないかということです。

ちなみに、最も代表的なヘッジファンド指数である、HFRX グローバル・ヘッジファンド指数の推移を見てみたいと思います。

2006年6月以降のデータしか入手できませんでしたが、S&P 500の推移とともに示したのが以下の図です。

HFRXとS&P500の推移を示した図。

この図からは、HFRXがS&P 500に対して、大きくアンダーパフォームとなっていることが分かります。

さすがに、このような図を載せたら本書の内容はこれで終わりとなってしまうので、致し方なかったということでしょう。

なぜなら、本書に書かれている次のような説明や論理が成り立たなくなってしまうからです。

世界最高水準の実績を持つ運用業者がヘッジファンドである。

プロを雇う際に一切のしがらみもなく、純粋にお金を儲けることを唯一の目的にした場合には、その蓋然性から考えて「過去実績が優れているヘッジファンドに運用を任せる」ことに一定の合理性があり、「最高の投資法」と言えるだろう。

4. 優良なヘッジファンドは選別できるのか?

第3章ではまず、ヘッジファンド業界について書かれており、レイ・ダリオやジョン・ポールソンなどといった、年収数千億円のヘッジファンド・マネジャー9名についても触れられています。

続いて、ヘッジファンドの投資戦略や、ファンドのスキーム、ヘッジファンドを購入する方法などについて書かれています。

そして、本章で最も気になった部分が、ファンドの選別についての記載です。

まず前提として、次のようなことが投資の世界では一般的に言われています。

過去の運用実績やデータを分析して、将来の運用成果を予測したり、優良なファンドを事前に選別することはできない。

これは、次のような検証の結果が根拠となっています。

アクティブファンドが全部で100本あるとして、過去3年間で成績優秀だった上位ファンド群と成績が悪い下位ファンド群に分けてみる。その後の6年間の成績を見てみると、上位ファンド群のいくつかのファンドは下位に落ち、下位ファンド群のいくつかのファンドは上位に上がるという結果が出た。

この、「過去の運用実績から、優良なファンドを選別することはできない」という通説に対して、著者は次のように反論しています。

よい母集団の中から精査をするというプロセスを得た上で優秀なファンドを見極めることは、不可能なことではない。

しかし、優秀なファンドを見極めるための独自の理論など、肝心なことについては一切触れられていません。

ここで、最近あった興味深い事例というのをご紹介しておきたいと思います。

それは、世界的にも有名な投資家であるウォーレン・バフェット氏とヘッジファンドとの「闘い」です。

バフェットは、これまでに何度も普通の人はS&P 500に連動するインデックス・ファンドに投資すればいいというアドバイスをしていますが、これに挑戦したのがファンド・オブ・ヘッジファンドの運営会社である、プロテジェ・パートナーズ社でした。

そして、勝負の期間は2008年から2017年までの10年間でしたが、プロテジェ社の選んだ5つのヘッジファンドは一つとしてS&P 500に連動するインデックス・ファンドの成績を上回ることができなかったのです。

要するに、ファンド選びのプロですら、優秀なヘッジファンドを全く選ぶことができなかったということです。

こういったことなどから、著者が優秀なヘッジファンドを見極めることができると言うことに対して、大変疑わしいと感じるのは私だけではないでしょう。

本書には、次のような記載がありますが、全く同じことをそのまま著者に問いかけたいというのが、率直なところです。

もし自分は勝てると思うのであれば、自己帰属バイアスに影響されていないか、つまり自惚れていないか、自分を冷静に見つめ直す必要があるだろう。

5.総括

本書では、筆者の運営するヘッジファンドダイレクトでは、「ファンド側から広告費・販売手数料等の名目によらず金銭の受領は一切ない」と再三書かれています。

これは、アブラハム・プライベートバンク(現ヘッジファンドダイレクト)が、2013年に金融庁から無登録営業、金融商品取引法違反により、6か月の業務停止命令が下されたことが大いに関係しているのでしょう。

このことに対して、本書では次のような記載があります。

アブラハム・プライベートバンクは、親会社がファンド会社から広告費を受領していたため、グループ全体として販売行為を行っていたと見做された。

あくまで親会社の問題だったと言わんばかりで、親会社がどの会社を指しているのかも分かりませんが、著者はその会社も含めたグループ全体の代表であったはずです。

そして、もちろん本書には書かれていませんが、業務停止処分が明けてからも、ある証券会社の商品を独自開発したもののように見せかけたり、勝手に「元本確保型」と宣伝するなどしていたようです。

結局、逸脱した販売活動を行っていたとのことで、証券会社の方から契約解除を言い渡されることになっていたとのことです。

こういった過去を持つ著者の現在の事業に対して、疑念を抱く人は少なからずいることと思われます。

しかし本書は、そういった疑念を拭い去るには不十分だと言わざるを得ない内容であったといえます。

 

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