投資戦略・手法・市場展望

オプション取引④ オプション取引戦略(ストラドル、ストラングル、現金確保プット売り、ネイキッド・プット売り、カバード・コール)

オプション取引では、種類の違うオプションを組み合わせることで、様々な戦略をとることができます。

ここでは代表的なオプション取引戦略である、「ストラドル」や「ストラングル」、「現金確保プット売り」、「ネイキッド・プット売り」、「カバード・コール」について書いていきます。

1.ストラドル

まずは、ストラドルについてです。

ストラドルというのは、同じ限月で、同じ権利行使価格のコール・オプションとプット・オプションとを組み合わせたものになります。

また、同じ限月で同じ権利行使価格のコールとプットを同枚数ずつ買ったポジションのことをロング・ストラドルといい、売ったポジションのことをショート・ストラドルといいます。

このロング・ストラドルショート・ストラドルの損益図はそれぞれ以下の図のようになります。

ロング・ストラドルの損益図。ショート・ストラドルの損益図。

この図からも分かるように、ロング・ストラドルは、原資産価格が上下どちらかは分からないものの、どちらかに大きく動くことが予想される場合に有用なポジションです。

一方、ショート・ストラドルは、原資産価格があまり動かないことが予想される場合に有用であるといえます。

別の言い方をすると、オプションのインプライド・ボラティリティ(IV)が、低すぎると判断された場合にはロング・ストラドルが、高すぎると判断された場合にはショート・ストラドルが有用であるということになります。

2.ストラングル

次に、ストラングルについてです。

ストラングルというのは、同じ限月で、異なる権利行使価格のコール・オプションとプット・オプションとを組み合わせたものになります。

また、同じ限月で、より権利行使価格の高いコールと、より権利行使価格の低いプットを同枚数ずつ買ったポジションのことをロング・ストラングルといい、売ったポジションのことをショート・ストラングルといいます。

このロング・ストラングルショート・ストラングルの損益図はそれぞれ以下の図のようになります。

ロング・ストラングルの損益図。ショート・ストラングルの損益図。

ストラングルの考え方については、基本的に前記のストラドルと同様です。

両者の違いは、まずロング・ストラングルの方では、ロング・ストラドル以上に原資産価格が大きく変動しないと利益を上げることが出来ないものの、支払うプレミアムはロング・ストラドルよりも安く済むといった点です。

一方、ショート・ストラングルでは、ショート・ストラドルに比べて、受け取るプレミアムは少なくなりますが、原資産価格の許容できる変動幅が広くなります。

3.プット売り(現金確保プット売り)

続いて、プット・オプションの売りについてです。

これについては、今まで書いてきたようなオプション同士を組み合わせる戦略ではなく、ただ単にプットを売り建てるだけなのですが、よく用いられる戦略なので、ここで取り上げたいと思います。

念のためですが、プット売りの損益は以下の図のようになります。

プット売りの損益図。

そして、このプット売りには、現金確保プット売り(CSP:Cash secured put writing)ネイキッド・プット(Naked put)とがあります。

まず、プットの売りが権利行使されて割り当てられた場合に必要となる資金をあらかじめ用意しておくのが、CSP(現金確保プット売り)になります。

一方、ネイキッド・プット売りは、ネイキッド(naked)に「裸の」や「無防備の」といった意味があるように、CSPのように十分な資金を用意せずにプットを売り建てることをいいます。

上図からも明らかなように、プットの売りでは原資産価格が下落した際に、損失が大きく膨らんでしまう危険性があるため、特にネイキッド・プット売りでは損切りを徹底する必要があります。

それに対してCSPでは、一定の価格まで下がったら買ってもよいと思えるような原資産を選び、その権利行使価格でプットを売っていれば、仮に権利行使されて原資産を割り当てられることになったとしても、必ずしもそれが悪い取引であるとはいえません。

そして、CSPで原資産を割り当てられた場合にはその後、一般には後述するカバード・コールへと移行していくことになります。

4.プット売り(ネイキッド・プット売り)

さて、ここではネイキッド・プットについて、いくつかの研究結果を見ながら深堀りしていきます。

まずは、1995年から2009年までのDow Jones EURO STOXX 50 Indexを原資産とした、ネイキッド・プット売りについての研究です。

この研究では、当初の原資産価格の103%100%97%の権利行使価格それぞれについてのリターンや標準偏差、シャープ・レシオを調べています。

なお、標準偏差というのは、統計学の用語でデータのばらつきの大きさを表し、これは投資においては収益の振れ幅のことを指します。

つまり、標準偏差は、投資で言うところのリスクを数値化したものです。

また、シャープ・レシオというのは、リスク調整済みのリターンを測るもので、次の式で求められます。

シャープレシオ=(リターン-無リスク金利)÷ 標準偏差

つまり、このシャープレシオが高いほど、取ったリスクに対して高いリターンを上げていることになり、効率的な運用ができているとされるのです。

なお、無リスク金利とは、リスクフリーレートとも呼ばれ、通常は国債利回りや銀行間取引の金利であるインターバンクレートのことを指しますが、ここではあまり気にしなくて構いません。

そして、この研究の結果、権利行使価格が当初の原資産価格の103%のプット売りで、リターン及びシャープ・レシオが最も高くなっていました。

また、他の二つの権利行使価格においても、単純な原資産の買い持ちと比較した場合に、リターン及びシャープ・レシオは高いものとなっていました。

そのため、一概にネイキッド・プット売りはリスクが高く行うべきでないとは言い切れません。

ただ、原資産と比較して標準偏差が高くなっているのも事実であり、リスクが高いのは間違いないため、やはり何らかの戦略を立てる必要があると言えそうです。

5.ネイキッド・プット売りの具体的な戦略

これに関しては、1990年から2010年までのS&P 500 Index(SPX)を原資産とした、ネイキッド・プット売りの研究が参考になります。

この研究の結果、権利行使価格をアット・ザ・マネー(ATM)のものとし、原資産価格が権利行使価格よりも5~7%下になったら買い戻すという戦略が最も良いパフォーマンスを示しました。

ただし、この戦略においても標準偏差が高いことには変わりなく、また権利行使価格がATMのものということで、原資産価格がすぐに買い戻しの水準まで下がってしまいます。

そのため、この研究の主宰者は、より現実的な戦略として以下のようなものを勧めています。

それは、権利行使価格を「原資産価格の4%」、あるいは 「0.2× IV(インプライド・ボラティリティ)」、あるいは「 0.2×HV (ヒストリカル・ボラティリティ)」だけ低い水準にするというものです。

そして、原資産価格が権利行使価格の5%下になったら買い戻すという戦略になります。

なお、いったん買い戻した後にネイキッド・プット売りを続ける場合にはいくつかの選択肢があり、具体的には以下のようになります。

  • Rolling down(ローリング・ダウン):満期日が同じで、さらに権利行使価格の低いプットを売る。
  • Rolling out(ローリング・アウト):満期日がより遠くで、権利行使価格の同じプットを売る。
  • Rolling down and out(ローリング・ダウン・アンド・アウト):満期日がより遠くで、さらに権利行使価格の低いプットを売る。

これらのうち、どれが良いというのはありませんが、Rolling downはあまり行われず、一般的にはRolling outか、Rolling down and outが行われます。

6.カバード・コール

最後に、カバード・コールについてです。

カバード・コール(CCW:Covered Call Writing)というのは、「原資産の買いポジション」と「コール・オプションの売り」とを組み合わせた戦略のことになります。

このCCWの損益を示したのが、以下の図です。

カバード・コールの損益図。

この図から分かるように、「カバード・コール」の損益図は、前述した単なる「プット・オプションの売り」の損益図と同様のものとなります。

そして前述したように、CSP(現金確保プット売り)で原資産を割り当てられた場合には、その「原資産の買いポジション」に「コールの売り」を組み合わせて、カバード・コール(CCW)へと移行することもできます。

CCWでは、原資産が一定水準以上に上昇した場合の利益を放棄することにはなりますが、プレミアムを受け取ることによりパフォーマンスの向上が期待できるのです。

もちろん、上昇相場では単純な原資産の買い持ちと比較して、CCWのパフォーマンスは落ちますが、一般に下落相場やレンジ相場ではCCWの方が良いパフォーマンスが期待できます。

そのため、しばらくは相場があまり変動しない、あるいはやや弱気だと予測されるような場合に、CCWは有効な戦略であるといわれます。

しかし、実際には相場の先行きを予測するのは困難なため、これに関してはそこまで意識しなくてもいいでしょう。

重要なのは、CCWで売り建てるコールの権利行使価格をどう決めるかですが、これについては参考となる研究結果がいくつかあります。

それらによると、権利行使価格はアット・ザ・マネー(ATM)から5%アウト・オブ・ザ・マネー(OTM)、つまり原資産価格の100~105%が良いことが示されています。

ただ、これらの研究はアメリカやヨーロッパの株価指数を原資産としたものなので、例えばボラティリティの高い個別株などでCCWを行うような場合には、もう少し幅を持たせて権利行使価格を決めた方が良いかもしれません。

7.カバード・コールの具体的な戦略

また、コールの満期日をいつにするのかも重要です。

プレミアムに関する以下の記事でも書きましたが、ATM付近のオプションでは、満期日近くで時間価値が急激に減衰していきます。

このことから、満期日までの残存期間の短いコールを売り建てた方が、プレミアムを効率良く獲得していけると考えられます。

実際、コールの満期日までの残存期間を、3ヵ月よりも1ヵ月、1ヵ月よりも1週間としたCCWの方が、リターンが高くなるといった研究結果もあります。

ただ、その研究結果では、1週間と1ヵ月のものでは、それほどリターンに大差がなかったため、手間を考えると満期日までの残存期間が1ヵ月のコールを用いたCCWで十分だといえます。

さらに、原資産を売却しないことを前提とした場合のCCWのフォローの仕方として、参考になる研究があります。

これは、S&P 500 Index(SPX)を原資産とした1996年から2012年までの期間におけるもので、以下のパターンについて調べています。

  1. 満期日が3ヵ月先のATMのコールを売り建て、3ヵ月後に買い戻して、新たに満期日が3ヵ月先のATMのコールを売り建てる。
  2. 満期日が3ヵ月先のATMのコールを売り建て、1ヵ月後に買い戻して、新たに満期日が3ヵ月先のATMのコールを売り建てる。
  3. 満期日が1ヵ月先のATMのコールを売り建て、1ヵ月後に買い戻して、新たに満期日が1ヵ月先のATMのコールを売り建てる。

その結果、Bの手法が最もリターンが高く、かつ標準偏差も最も低くなっていました。

余談ですが、Bの方がCよりも優れた結果を示したというのは正直意外でした。

それは、このBの手法では、上述した満期日近くでの時間価値の急激な減衰を捉えることができないためです。

ちなみに、Cの手法ではリターンは割と高いものの、標準偏差が高くなってしまっていました。

この結果からは、以下のグリークスの記事の中で書いた、ATMのオプションにおける満期日直前でのガンマの増大が、コールの売り持ちにとって不利に働いていると考えられます。

つまり、満期日直前から満期日にかけて、プレミアム(オプション価格)の変動幅が大きくなり、それがリスクを高めているといえそうです。

なお、この研究では②の方法において、コールを売り建てる際の権利行使価格についても、「5% OTM(アウト・オブ・ザ・マネー)」、「2.5% OTM」、「ATM」、「2.5% ITM(イン・ザ・マネー)」、「5% ITM」 の5つで比較しています。

すると、やはり「2.5% OTM」、および「5% OTM」のコールで高いシャープ・レシオを示す結果となっていました。

 

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