投資戦略・手法・市場展望

オプション取引② プレミアム(本質的価値と時間価値)

以下の記事では、主にコール・オプションおよびプット・オプションについて書きました。

ここでは、その中でも出てきたプレミアムについてです。

 

1.プレミアムとは?

プレミアム(premium)には、保険料や保険の掛け金、為替や株などの手数料、などといった意味があります。

そして、オプション取引におけるプレミアムは、オプション料オプション価格ともいわれます。

ここで、オプション取引というのは、買う権利であるコール・オプション(以下、コール)や、売る権利であるプット・オプション(以下、プット)といった、権利を売買する取引でした。

この権利(オプション)の買い手は、プレミアムを支払うことで権利を取得し、売り手プレミアムを受け取るかわりに、権利を保障することになるのです。

そのため、冒頭にご紹介した記事の中でも触れましたが、オプションの買い手にとっての損失は、最大でも支払ったプレミアムに限定されます。

一方、オプションの売り手にとっての利益は、受け取ったプレミアムに限定されるということでした。

それでは、このプレミアムの決定要因について見ていきたいと思います。

プレミアムは、以下の式のように、本質的価値時間価値というものから構成されます。

プレミアム=本質的価値+時間価値

なお、オプションの理論価格の算出方法として代表的なものに、ブラック・ショールズ方程式というものがありますが、これは本質的価値や時間価値を構成する各要素を数式化したものです。

ただ、このブラック・ショールズ方程式の細かい理論などについてまで理解する必要性は低いのではないかと思われます。

私たち一般の個人投資家レベルでは、後述する本質的価値や時間価値を構成する各要素の中でも、特に重要なものに関してだけ押さえておけば十分でしょう。

2.本質的価値

では、まずはプレミアムを構成する要素のうち、本質的価値についてです。

本質的価値とは、その時点でオプションを権利行使した場合に生じる価値(原資産価格と権利行使価格との差額)のことで、内在的価値とも呼ばれます。

本質的価値は、ゼロになることはあっても、マイナスになることはありません。

例えば、権利行使価格が100円のコール(買う権利)を買い持ちしていて、ある時点での原資産価格が105円であったとします。

この場合、このオプションにはその時点で、5円の本質的価値があることになります。

そして、ここで仮に原資産価格が100円以下に下落した場合には、本質的価値は0円ということになるのです。

このように、コール(買う権利)では、原資産価格が権利行使価格を上回っている場合にのみ、両者の差額が本質的価値となります。

一方、プット(売る権利)では、原資産価格が権利行使価格を下回っている場合にのみ、両者の差額が本質的価値となるのです。

3.本質的価値と権利行使価格

また、こういった原資産価格と権利行使価格との関係性によって、オプションは次の3つの状態に分類されます。

  • イン・ザ・マネー(In the Money、以下ITM)
  • アウト・オブ・ザ・マネー(Out of the Money、以下OTM)
  • アット・ザ・マネー(At the Money、以下ATM)

まず、ITMというのは、オプションに本質的価値がある状態のことを指します。

つまり、コールでは原資産価格が権利行使価格を上回っている状態、プットでは原資産価格が権利行使価格を下回っている状態になります。

ITMの中でも、原資産価格と権利行使価格とがかけ離れていて、大きな本質的価値を持つ状態のことを特に、ディープ・イン・ザ・マネー(Deep In the Money)と呼びます。

次に、OTMというのは、コールでは原資産価値が権利行使価格を下回っている状態、プットでは原資産価格が権利行使価格を上回っている状態になります。

ですから、OTMはオプションに本質的価値がない状態となります。

OTMの中でも、原資産価格と権利行使価格とがかけ離れていて、ほとんど価値のない状態のことを特に、ファー・アウト・オブ・ザ・マネー(Far Out of the Money)と呼びます。

そして、ATMというのは、原資産価格が権利行使価格と等しい状態のことを指します。

そのため、ATMにおいてもOTMと同様に、オプションに本質的価値はありません。

4.時間価値

次に、プレミアムを構成するもう一つの要素である、時間価値についてです。

時間価値とは、原資産の現時点から満期日までの間の価格変動により、オプションの本質的価値が上昇することへの期待値のことです。

ですので、時間価値についても、ゼロになることはあっても、マイナスになることはありません。

この時間価値を決める要素には、以下の3つのものがあります。

  • 満期日までの残存期間
  • ボラティリティ(価格変動率)
  • 金利・配当

まず残存期間についてですが、時間価値という名の通り、満期日までの残存期間が長いほど、時間価値は大きくなります。

これは期間が長ければ長いほど、その間にオプションの本質的価値が生じたり、上昇したりする可能性が高まるためです。

次にボラティリティについてです。

ボラティリティ(Volatility)というのは、価格変動率ともいわれるように、価格変動の大きさを表すもので、一般に標準偏差で示されます。

また、オプションにおけるボラティリティは通常、原資産価格の1年間の変動率、すなわち年率(%)で表されます。

そして、このボラティリティには、次のように2種類のものがあります。

  • ヒストリカル・ボラティリティ(Historical Volatility:HV、歴史的変動率)
  • インプライド・ボラティリティ(Implied Volatility:IV、予想変動率)

HVは、原資産の過去一定期間の価格変動率の平均値で求められ、これはまさに標準偏差と同義になります。

一方、IVは実際に取引されているオプションのプレミアムやHVなどから逆算されるもので、市場に織り込まれている、原資産の価格変動率を示すものになります。

そして、オプションにおいては、HVにしてもIVにしても、ボラティリティが高くなると時間価値が大きくなります。

これは原資産価格の変動率が大きいほど、オプションの本質的価値が生じたり、上昇したりする可能性が高くなるためです。

最後に、金利配当についてです。

例えば、金利が上昇すると、満期日までに原資産に付加される利子が増加し、その分だけ原資産価格が押し上げられるような形となります。

そのため、金利上昇により、買う権利であるコールの価値は増加し、売る権利であるプットの価値は減少します。

一方の金利低下ではその逆となり、コールの価値は減少、プットの価値は増加となります。

また、配当に関しても金利と同様です。

ただ、満期日までの残存期間が半年や1年などと相当に長かったり、利率が数十パーセントなどと余程高かったりしない限りは、そこまで金利や配当の影響は大きくありません。

時間価値に大きな影響を及ぼしてくるのは、残存期間ボラティリティであるといえます。

5.時間価値の特徴

このように、プレミアム(オプション価格)に、時間の経過や価格変動の大きさなどといった時間価値が影響してくるのが、オプションの最大の特徴であるといえます。

そして、この時間価値の特徴を理解することが、オプション取引を活用するうえで重要になってきます。

そのため、ここからは時間価値の特徴について書いていきたいと思います。

まずは、以下の図をご覧ください。この図は、コールのプレミアムを本質的価値と時間価値とに分けて見たものです。

コール・オプションの本質的価値と時間価値。

この図にあるように、時間価値は、原資産価格が権利行使価格と等しい状態である、アット・ザ・マネー(ATM)で常に最大となります。

6.時間価値の減衰

次に、時間経過により、時間価値が減衰していく様子を表したのが、以下の図です。

コール・オプションにおける、残存期間ごとのプレミアム。

この「時間価値の減衰」のことを、「タイム・ディケイ(Time Decay)」ともいったりします。

そして、この時間価値の減衰をATM、ITM、OTMごとに示したのが以下の図になります。

ATM、ITM、OTMにおける、時間経過と時間価値の減衰。

この図にあるように、OTMやITMのオプションでは、徐々に時間価値が減衰していくのに対し、ATMのオプションでは、満期日に近くなってから急激に時間価値が減衰していくことが分かります。

7.時間価値を利用した基本的なオプション戦略

オプション取引において、原資産価格や、ボラティリティ、金利・配当といったその他の条件が一定であれば、プレミアムは時間経過により必ず減少していきます。

ですから、オプションの売り手となることで、たとえ相場が動かなくても、この時間価値の減衰から利益を上げられる可能性があるのです。

そして、オプションを売る際には、上述したように満期日近くにATM付近のオプションを選択するといった戦略も考えられます。

ただ、満期日近くはボラティリティが高まりやすいので、逆にあえてその期間を避けるといった考え方もあります。

つまり、早くからオプションを売っておき、満期日が近くなる前に買い戻すのです。

また、このように時間価値にはボラティリティも大きく影響してくるので、できるだけボラティリティが低いときにオプションを買い、ボラティリティが高いときにオプションを売るのが有利だといえます。

オプション取引を利用した具体的な戦略についてはまた別の機会に書いていきますが、このように原資産価格の上下だけによらない戦略を組み立てられるのが、オプション取引の最大の特徴なのです。

 

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