相場のデータ・指標

2種の「ブルベア指数」。一方は無用だが、もう一方は有用か!?

ブルベア指数は米国の株式市場における指標ですが、主に2種類のものがあります。

ここでは、そのそれぞれについて米国の代表的な株価指数であるS&P 500と比較しながら見ていきたいと思います。

1.ブル・ベアの意味と由来

初めに、ブルベア指数という言葉にある、ブル(Bull)とベア(Bear)の意味とその由来について書いていきます。

まず前者の「Bull」 には「雄牛」という意味があり、雄牛が獲物を攻撃する際に、角で下から上に突き上げる様から、相場においては強気上げ相場といった意味で使われます。

一方、「Bear」 には「」という意味があり、熊が鋭い爪のついた前足を振り下ろして攻撃する様から、弱気下げ相場といった意味で用いられます。

また、「Bear」については、「Don’t sell the bearskin before you’ve caught the bear.(熊を捕まえる前に毛皮を売るな)」という諺から、株を空売りすることが連想されるため、弱気や下げ相場という意味で使われるようになったともいわれています。

このように、ブルとベアの由来については諸説あるのですが、いずれにしても、ブルは強気ベアは弱気という意味になります。

2.ブルベア指数とは?

そういったことから、ブルベア指数(Bull Bear Index)というのは、相場に対する強気派と弱気派の割合を示した指標のことをいいます。

このブルベア指数では一般に、強気の割合が高くなるほど、相場は天井圏で下落の危険性が高まっていると判断され、逆に弱気の割合が高くなるほど、相場は底値圏で反発・反騰する可能性が高まっているといった見方がされます。

つまり、逆指標として用いられるのです。

そして、このブルベア指数の代表的なものとしては、AAII の Investor SentimentInvestors Intelligenceの Sentiment Index(Advisor’s Sentiment)とがあります。

前者のAAII(American Association of Individual Investors)のものは、AAII の会員である個人投資家を対象として、米国株式市場の先行きに対して、強気や弱気、中立の割合を調査したものです。

また、後者の Investors Intelligence社のものは、独立系調査会社が発行する100以上のニュースレター(レポート)を強気や弱気、中立に分け、その割合を調査したものになります。

それでは早速、これらのブルベア指数について見ていきます。

3.AAII  Investor Sentiment

まずは、AAIIのものからです。

以下の2つの図は、1987年7月下旬以降の、ブル(強気)とベア(弱気)の割合の推移をそれぞれS&P 500との比較で示したものになります。

これらの図を見て分かるように、ブルとベアともにその割合が上下に大きく変動しており、S&P 500との相関もほとんど認めませんでした。

変動をなだらかにして傾向をつかむために、両者の8週や26週の移動平均を調べてみたりもしましたが、特に何らかの傾向をつかむことはできませんでした。

また、傾向だけでなく、ブルやベアの割合がどの水準まで到達したら天井圏や底値圏を示唆しているといった、有意な水準に関しても見出すことはできませんでした。

そこで、ブルの割合からベアの割合を引いた「Bull-Bear Spread」および、ブルの割合をベアの割合で割った「Bull / Bear Ratio」の推移をそれぞれS&P 500と比較したのが以下の2つの図です。

しかし、残念ながらこの「Bull-Bear Spread」と「Bull / Bear Ratio」においても、ほとんどS&P 500と相関を認めず、天井圏や底値圏を判断するのに有用な水準というのも特に見出すことはできませんでした。

以上のように、AAII の Investor Sentimentについては、ほとんど役に立たず、無用であるといえます。

4. Investors Intelligence Sentiment Index

次に、 Investors Intelligence Sentiment Index(Advisor’s Sentiment)についてです。

これに関しては、データを直接取得することができなかったので、これについて分析しているYardeni Researchのレポートから一部を抜粋して掲載したいと思います。

まず、1987年以降のブルとベアの割合の推移を示しているのが以下の図です。

ブルとベアの割合の推移(1987年~)

この図では、50%30%の水準にラインが引いてありますが、一般に Investors Intelligence の Sentiment Indexでは、ブル(強気)が50%以上かつ、ベア(弱気)が20%以下となった場合に、相場の天井圏を示唆しているといった見方がされます。

ただ、このSentiment Indexに関しても、AAII のものと同様にブルやベアの割合の変動が激しいことなどもあり、こういった見方もそこまで有用なものであるようには思えません。

そこで、ブルの割合をベアの割合で割った「Bull / Bear Ratio」の推移を見たのが以下の図です。

Bull / Bear Ratio の推移(1987年~)

この図では、3倍1倍の水準にラインが引かれていますが、必ずしも3倍以上が天井圏を、また1倍以下が底値圏を示唆しているわけではなく、むしろダマシの方が多くなっています。

ちなみに、ダマシというのは、実際の相場の動きがテクニカル分析などのシグナル通りにならないことをいいます。

そして、このBull / Bear Ratioを、少し違った角度から見たのが以下の2つの図です。

より具体的には、上の図ではBull / Bear Ratioが3倍以上となっている期間が赤色の線で示されており、下の方の図では1倍以下となっている期間が緑色の線で示されています。

Bull / Bear Ratio:3倍以上の期間(1987年~)

この図を見ると、2013年末頃よりBull / Bear Ratioが3倍以上となっている期間が著明に増加しています。

その強気派の多い期間が、2015年半ばまで約1年半ほど続いていましたが、その間相場は上昇を続けており、そのほとんどがダマシであったことが分かります。

ただ、その後の2015年半ばからはシグナル通り、相場はしばらく調整期間となっていました。

そして、2017年初め頃より再び強気派の多い期間が続いており、それと歩調を合わせるようにして相場も上昇を続けています。

この上昇が今後どこまで続いていくかは分かりませんが、2015年半ば以降と同じように現在は、相場調整への警戒が必要な局面ではないかと思われます。

次に、Bull / Bear Ratioが1倍以下となっている期間を緑色の線で示した以下の図を見ていきます。

Bull / Bear Ratio:1倍以下の期間(1987年~)

すると、2000年以降ではBull / Bear Ratioが1倍以下となっている局面が、概ね相場の目先の底を示唆しているように見えます。

5.ブルベア指数まとめ

以上のことから、Investors Intelligence Sentiment Index Bull / Bear Ratio に関しては、今後も注目に値するものであると思われます。

そして、目先の相場においては、現在3倍を大きく超えている Bull / Bear Ratio が1倍の水準に向かって急降下するようなケースに注意を払っておく必要があるといえます。

ただ、この指標に関しては、相場の下落を予測するというよりも、相場が下落してから弱気派が増えるといったように、相場の後追いとなるような面があります。

また、2007年から2008年にかけてのリーマン・ショックの時のように、Bull / Bear Ratio が1倍以下の期間が1年近く続き、その間相場が下がり続けるといった場合もあります。

そういった点を踏まえて見ていけば、今後の相場を考える上で参考になる指標だといえるのではないでしょうか。

 

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