相場のデータ・指標

全国百貨店売上高概況と日経平均株価

今回は、訪日外国人客の消費動向と日経平均株価の推移とを比較してみたいと思います。

1.インバウンド動向

少し前まで、中国人観光客による「爆買い」がメディアでよく取り上げられていましたが、最近ではどうなっているのでしょうか。

ちなみに、この中国人観光客を含む、訪日外国人客のことをインバウンド客、訪日外国人客による消費のことをインバウンド消費といったりもしますが、インバウンド(inbound)というのは英語で、「入国する、外国からやって来る」といった意味になります。

最近では、インバウンドは少し落ち着いたかと勝手に思ってしまっていたのですが、全くそんなことはなく、むしろ直近の2017年7‐9月期では、訪日客数(約750万人)、消費額(約1.2兆円)ともに過去最高となっています。

後者の消費額に関して、国別の消費額に占める割合を見ると、中国が約44%と最も多く、それに次ぐ台湾、韓国、香港、米国の4か国を合わせると全体の約8割を占めています。

また、インバウンド消費では、百貨店における高額商品の売れ行きが好調なようで、日本百貨店協会によると、インバウンド客に最も人気なのが「化粧品」で、それに次いで「ハイブランド」、「婦人服飾雑貨」だそうです。

2.全国百貨店売上高概況

そして、日本百貨店協会では、日本全国の主な百貨店の売上高をまとめた、全国百貨店売上高概況なるものを毎月公表しています。

この全国百貨店売上高概況は、商品別地区別などでも公表されており、日本国内の個人消費動向はもちろん、インバウンド消費の動向を把握するうえでも参考になります。

ここでは、商品別の中からその一部について見ていきたいと思いますが、具体的には以下のように分類されています。

  • 衣料品:紳士服婦人服、子供服、その他衣料品
  • 身のまわり品
  • 雑貨:化粧品美術・宝飾・貴金属、その他雑貨
  • 家庭用品:家具、家電、その他家庭用品
  • 食料品:生鮮食品、菓子、惣菜、その他食料品
  • 食堂・喫茶
  • サービス
  • その他
  • 商品券

これらのうち、太字で示したものについて、2006年9月からの推移を日経平均株価と比較しながら見ていきます。

3.「化粧品」、「美術・宝飾・貴金属」

まずは、インバウンド客に最も人気の「化粧品」についてです。

「化粧品」と日経平均株価の推移(2006年9月~)

「化粧品」の推移に関しては、概ね日経平均株価の推移と相関しているように見え、ここ数年の日経平均株価の上昇に合わせるようにして、「化粧品」の売上高も増加しています。

実際に相関係数も0.61と、割と強い相関を認めています。

なお、ここで取り上げた商品に関して、日経平均株価との相関性を認めたのは、この「化粧品」と次に取り上げる「美術・宝飾・貴金属」のみで、他の商品に関しては相関性をほとんど認めませんでした。

続いては、インバウンド客に人気のある高額商品の中心を占めると思われる、「美術・宝飾・貴金属」です。

「美術・宝飾・貴金属」と日経平均株価の推移(2006年9月~)

「美術・宝飾・貴金属」に関しても、「化粧品」ほどではありませんが、相関係数は0.46と相関を認めています。

ただ、ここ数年の「美術・宝飾・貴金属」の売上高は横ばいとなっていることが分かります。

また、ここで取り上げた両者を比較してみると、全体的に「化粧品」の方が「美術・宝飾・貴金属」よりも売上高が大きいということは意外でしたが、「化粧品」に関しては国内需要も拡大しているようです。

ちなみに、「化粧品」に関しては、2017年1月にポーラ・オルビスホールディングスから、6月には資生堂から、「シワ改善」の効果を明記できる化粧品が発売されています。

これらの新商品が大ヒットしているようで、「化粧品」の売上高にも少なからず影響を与えていると思われます。

今後も、この好調な売上が継続していくのか、および「化粧品」売上高と日経平均株価との相関性がどうなっていくのかには注目していきたいところです。

4.「家電」、「生鮮食品」

次いで、「家電」と「生鮮食品」についてです。

ここで「家電」を取り上げたのは、中国人観光客が家電量販店で「爆買い」をする様子がメディアで取り上げられているのを目にしたことがあるためです。

また、「生鮮食品」については、訪日外国人客の影響が少なく、国内消費を最もよく反映しているのではないかと思われたため取り上げてみました。

では早速、「家電」の方から見ていきます。

「家電」と日経平均株価の推移(2006年9月~)

この図を見ると、意外なことに「家電」の売上高は減少傾向にあることが分かります。

家電は、一度購入したら頻繁に買い替えるような商品ではないですし、インバウンド客の購入対象も次第に他の商品に向かっていっているということなのかもしれません。

続いて、「生鮮食品」です。

「生鮮食品」と日経平均株価の推移(2006年9月~)

こちらも同じく、全体的に右肩下がりの傾向となっています。

これは国内消費の低迷を示唆していると思われますが、それも大分以前から低迷していたことになります。

そう考えると、上記の「家電」に関しても、国内消費の低迷も影響していると考えるのが自然です。

5.「紳士服」、「婦人服」

最後に、「紳士服」と「婦人服」についてです。

この両者に関しては、参考までに取り上げてみました。

まずは、「紳士服」の方から見ていきます。

「紳士服」と日経平均株価の推移(2006年9月~)

この図から、「紳士服」の売上高は概ね横ばいですが、やや減少傾向にあることが分かります。

次いで、「婦人服」です。

「婦人服」と日経平均株価の推移(2006年9月~)

「婦人服」の売上高に関しては、「紳士服」と比べても明らかに減少傾向であるといえます。

それにしても、「婦人服」の売上高は「紳士服」の3倍前後で推移しており、いかに消費のカギを握るのが女性であるかということがよく分かります。

以上、いくつかの商品についてそれぞれ見てきましたが、全体として個人消費は落ち込んできているといえそうです。

アベノミクスの効果で、景気は上向きとなっており、最近では大企業だけでなく中小企業にまで景気回復の流れが波及しているようですが、その恩恵は個人にまでは十分に広がっていないようです。

 

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