相場のデータ・指標

ソロスチャートから見る「ドル円相場」

1.ソロスチャートとは?

ソロスチャートとは、世界的に著名な投資家であるジョージ・ソロス氏が考案した為替分析の指標のことをいいます。

ちなみにですが、ジョージ・ソロス氏は、1992年にイギリスの通貨ポンドに大量の空売りを仕掛け、それに対抗したイングランド銀行をも最終的に打ち負かしたことで知られ、「イングランド銀行を潰した男」との異名を持ちます。

そして、ソロスチャートでは、ある二か国間の為替相場を、両国のマネタリーベースの比率と比較します。

これは例えば、ドル円の為替相場についてみる際には、日米の中央銀行である日銀とFRBのマネタリーベース比を求めるということです。

マネタリーベースというのは、一言でいうと資金供給量のことで、中央銀行による資金供給量が増えればその国の通貨の価値は薄まって安くなるというのが、ソロスチャートの理屈になります。

2.ドル円相場のソロスチャート

では早速ですが、ドル円相場と日米マネタリーベース比を比較したソロスチャートを見ていきたいと思います。

ドル円とマネタリーベース比率の推移(1971年1月~)

この図からは、ドル円とマネタリーベース比率には相関があるようにも見えますが、実際に両者の相関係数を調べてみると、約0.38と確かに相関関係は認めるものの、弱いものとなっています。

また、2002年頃よりマネタリーベース比率が大きく動いていることも分かります。

その理由としては、マネタリーベース比率を算出するもとになる、日銀およびFRBのマネタリーベースの推移を見ると分かりやすいかと思いますので、それを示したのが下図になります。

日銀とFRBのマネタリーベースの推移(1971年1月~)

この図からも分かるように、2001年3月より2006年3月までは日銀による量的金融緩和政策が行われ、リーマンショック後の2008年11月以降はFRBによる量的緩和が3度行われました。

さらに、2013年4月からは日銀による量的・質的緩和(異次元緩和)も開始されました。

これらの量的緩和により、日銀やFRBのマネタリーベースが大きく増加したことで、2002年頃よりマネタリーベース比率が大きく動いているというわけなのです。

3.量的緩和と日銀当座預金

ここで、マネタリーベースというのは一言でいうと資金供給量であると書きましたが、より具体的には現金の通貨民間の金融機関が中央銀行に預けているお金の合計になります。

特に日本においては、マネタリーベースは次のように定義されます。

マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」

この式における「日銀当座預金」というのが、民間の金融機関が中央銀行に預けているお金のことになります。

そして、日銀の量的緩和によって、民間の金融機関が保有する国債等を日銀が買い入れると、その代金として日銀当座預金の残高が増加します。

しかも、この日銀当座預金残高の多くには0.1%の金利が付くため、民間の金融機関はその預金をほとんど取り崩しません。

つまり、量的緩和が実施されても、主に日銀当座預金が積み上がるだけで、必ずしも世の中にお金が出回っているわけではないということなのです。

4.修正マネタリーベース

そこで、マネタリーベースから「日銀当座預金」の額を差し引いた、修正マネタリーベースというものを用いるという考え方があります。

これは、「日本銀行券発行高」と「貨幣流通高」という、世の中に流通している現金についてだけ考慮するという考え方です。

ちなみにFRBでいえば、日銀当座預金に当たる超過準備の額をマネタリーベースから差し引いたものを修正マネタリーベースとして用います。

この日銀およびFRBの修正マネタリーベースの推移を示したのが以下の図になります。

日銀とFRBの修正マネタリーベースの推移(1984年1月~)

この図では、前出のマネタリーベース推移の図と比較しても明らかなように、量的緩和による影響概ね取り除かれ、なだらかな曲線を描いていることが見て取れます。

5.修正ソロスチャート

そして、この修正マネタリーベースをもとにしてドル円相場のソロスチャートを示したのが下図になります。

ドル円と修正マネタリーベース比率の推移①(1984年1月~)

この図からは、ドル円と修正マネタリーベース比率は割とよく相関しているように見え、実際に両者の相関係数を調べてみると、約0.55とまあまあの相関関係を認めています。

なお、全く同じデータを用いて、修正マネタリーベース比率の目盛間隔のみを変更したのが、下図になります。

ドル円と修正マネタリーベース比率の推移②(1984年1月~)

目盛間隔を変更しただけで、かなり印象が異なることが分かります。

①の図では、現在のドル円水準は妥当なものに思われ、②の図では円高余地がありそうに見えます。

6.為替変動要因とソロスチャート

元々のソロスチャートに関していえば、中央銀行の金融政策の影響によりソロスチャートの有効性が低下しているといえます。

一方で、修正ソロスチャートに関しては、ドル円相場の長期的な方向性を大まかに探る上では役に立ちそうだといえます。

もちろん、為替相場を動かす要因というのは様々ですので、ソロスチャートのみで為替相場を十分に説明できるわけではありません。

また、為替相場を動かす要因というのは具体的には、政策金利や金融政策、通貨の需給、国際収支、購買力平価、経済成長率、政治情勢などがあります。

このうち、ソロスチャートで関係してくるのは、金融政策通貨の需給といったところですが、元々のソロスチャートでは特に金融政策が、修正ソロスチャートでは特に通貨の需給が関係してきます。

7.ソロスチャートの考え方

そして、金融政策に関しては、主に各国中央銀行の金融政策決定会合の内容を追っていくしかありません。

つまり結局のところ、ソロスチャートはそれにより為替相場を予測するという性質のものではないように感じられます。

ソロスチャートから為替相場を予測することよりも、やはり金融政策の動向を注視していくことの方が大事だと思われるのです。

これは、ソロスチャートが為替相場と相関性を持つことからも明らかなように、為替相場は金融政策の影響を強く受けるためです。

このように、ソロスチャートからは、為替の世界ではごく当たり前とされていることをただ再確認させられるような結果となってしまったように思います。

しかし、修正ソロスチャートで通貨の需給について見ていくことに関しては有用だと考えています。

そして、為替相場と修正ソロスチャートに大きな乖離が生じた場合には、乖離の修正する方向に賭けるという戦略も考えられるかもしれません。

ただその場合も、乖離の修正には何年もの年月を要することがあるということは念頭に置いておく必要があります。

 

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